AIロボット駆動科学
シンポジウム2023

AIシンポジウムを開催しました

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科学研究プロセスを再定義する
「AIロボット駆動科学」

「AIロボット駆動科学シンポジウム 2023」が2023年7月6日に東京・有楽町にある国際フォーラムにて開催された。
主催はAIロボット駆動科学イニシアティブ設立準備事務局で、共催は以下の4プロジェクト。

・JST未来社会創造事業
「ロボティックバイオロジーによる生命科学の加速」
(高橋恒一代表)
・同
「マテリアル探索空間拡張プラットフォームの構築」
(長藤圭介代表)
・JSTムーンショット型研究開発事業
「人とAIロボットの創造的共進化によるサイエンス開拓」
(原田香奈子PM)
・同
「人と融和して知の創造・越境をするAIロボット」
(牛久祥孝PM)
講演イメージ 講演イメージ 講演イメージ 講演イメージ

「AIロボット駆動科学」とは、AIと実験ロボットを利用して科学研究プロセスを再定義しようとする新しい科学的方法論。
今回のシンポジウムは2部構成で実施され、第一部では4プロジェクトの代表が一同に会して最新のトピックスや動向を紹介し、外部の識者を交えてパネルディスカッションも行われた。
第二部では若手研究者による研究紹介やポスターセッションが行われた。
シンポジウムには約180名が来場し、会場は超満員となった。

来 賓

清浦 隆

清浦 隆

文部科学省 大臣官房審議官(科学技術・学術政策局担当)

渡辺 捷昭

渡辺 捷昭

トヨタ自動車 元代表取締役社長

坂本 修一

坂本 修一

内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 審議官

第一部登壇者

高橋 恒一

高橋 恒一

JST未来社会創造事業「ロボティックバイオロジーによる生命科学の加速」代表

長藤 圭介

長藤 圭介

JST未来社会創造事業「マテリアル探索空間拡張プラットフォームの構築」代表

原田 香奈子

原田 香奈子

JSTムーンショット型研究開発事業「人とAIロボットの創造的共進化によるサイエンス開拓」PM

牛久 祥孝

牛久 祥孝

JSTムーンショット型研究開発事業「人と融和して知の創造・越境をするAIロボット」PM

林 和弘

林 和弘

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)データ解析政策研究室長

嶋田 義皓

嶋田 義皓

科学技術振興機構(JST)
研究開発戦略センター(CRDS)フェロー

北野 宏明

北野 宏明

ソニーグループ 最高技術責任者、
内閣府AI戦略会議 構成員

川原 圭博

川原 圭博

東京大学 教授・内閣府AI戦略会議 構成員

第二部登壇者

倉持 隆雄

倉持 隆雄

科学技術振興機構 研究開発戦略センター 副センター長

尾崎 遼

尾崎 遼

筑波大学 医学医療系バイオインフォマティクス研究室

飯田 正仁

飯田 正仁

三菱総合研究所 先進技術センター 研究員

清水 亮太

清水 亮太

東京大学理学系研究科 化学専攻 准教授

二階堂 愛

二階堂 愛

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 ゲノム機能情報分野教授、理研生命機能科学研究センター(BDR) バイオインフォマティクス研究開発チームチームリーダー

吉野 幸一郎

吉野 幸一郎

理研ガーディアンロボットプロジェクト(GRP)知識獲得・対話研究チーム チームリーダー、奈良先端大 先進科学技術研究科 ロボット対話知能研究室(連携) 客員教授

竹内 一郎

竹内 一郎

名古屋大学 工学研究科 機械システム工学専攻 機械知能学 教授、理研 革新知能統合研究センター(AIP) データ駆動型生物医科学チーム

久木田 水生

久木田 水生

名古屋大学 情報学研究科 社会情報学専攻 情報哲学講座 准教授

馬場 雪乃

馬場 雪乃

東京大学総合文化研究科 広域科学専攻
准教授

当日スケジュール

13:00
開会挨拶・来賓挨拶
13:15
第一部講演
14:00
第一部パネル討論
14:50
第二部ポスターセッション
15:50
第二部講演
17:35
閉会挨拶

開会・来賓挨拶

主催者の一人である高橋恒一氏による挨拶に続き、まず来賓挨拶が行われた。

はじめに文部科学省 大臣官房審議官 科学技術・学術政策局担当 の清浦隆氏は「発起人の先生方は異なるグループでそれぞれプロジェクトを率いている。その皆様が各々の研究を超えたパッションを持ち寄られ、意気投合して今回のシンポジウムに至っていると聞いた。非常に幅広い分野、医療やバイオ、プロセス、材料、ロボットなど広い関係者が集まって意見交換されるということで期待している。我々としてもエマージングなテクノロジーを捉えてどのように施策に反映させていくかは重要。特に技術進展が速くインパクトの幅と程度が大きいテーマには政府としても高い関心を持っている。このシンポジウムを契機として、あらゆる研究者が連携して新しい分野を作り出す潮流をリードするムーブメントにつながるものになれば」と述べた。

そして「今日のシンポジウムは一般公開で、国民の関心も高い。産業界、研究機関、政府関係者など様々な方も来場していると聞く。研究ステージのあらゆる段階で社会との対話による透明性と信頼性の確保が重要。その観点からも意義深い」と語った。

挨拶_清浦隆
挨拶_渡辺捷昭

次にトヨタ自動車 元代表取締役社長の渡辺捷昭氏が登壇。「4人が自主的にこのシンポジウムを開催されたのは素晴らしい。また国も激励の挨拶をして『放っておかない』と言ったことは素晴らしい。AIロボット駆動科学は国を挙げてやらないといけない。よく科学技術立国を復活させないといけないと言われる。つまり衰退しているということ。中国は素晴らしい進展をしている。自動車もその流れの一つ。BYDは200万台近い電気自動車を生産している。科学技術立国復活のために、AIロボットは基盤技術。やらないといけない必須の項目だ」と述べた。

そして「今までの常識が非常識になる可能性があるのがAI。新しい常識がこのシンポジウムから生まれることを期待している。変化に柔軟に迅速に対応できるものが生き残る。そうしなければ科学技術立国・日本の成果は生まれてこない。
世界と一緒になって世界をリードする国であってほしい。大いに期待している」と語った。

内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 審議官の坂本修一氏はサイバーとフィジカルを融合させて新たな価値を生む『Society5.0』について語り、「変化はまず科学技術研究の場から起こる。様々な試行錯誤が加速していく。内閣府では『ムーンショット』を進めている。その設計思想そのものが試行錯誤の極限を構想している。未来社会をいかに我々の手で掴みとっていくか。政策でもサポートしていきたい」と述べた。

そして「AIロボット駆動のためにもデータを構造化し統合していくレイヤーが極めて重要。そのなかで新たな知を作り上げ、知的作業や価値創造のパラダイムに変わっていく。本日、関連するプロジェクトの方々が集まったこの機会に、異なるアプローチ、異なる視点の人たちでインタラクションすることで新しいリスクにも正面から取り組み、果敢に挑む人材を増やすシステム作りを議論していく第一歩となることを祈念する」と語った。

挨拶_坂本修一

第一部AIロボット駆動科学の潮流

■第一部講演

第一部講演イメージ

シンポジウムではまず高橋恒一氏が、「AIロボット駆動科学」とは何かを実例を交えて紹介した。AIとロボットを使った研究プロセスの統合、分野横断、人の認知能力超える科学の実現は必然的な流れだと述べた。そして新たなアプローチとして、「1. 複雑な世界を複雑なまま捉える、2. 多様な高品質データで不確実性から本質をあぶりだす、3. 専門性を超えた総合知的アプローチ」が必要だと語った。
高橋氏自身はロボティック・バイオロジー・プロトタイピング・ラボを理研神戸事業所に建設し、既にiPS細胞の培養・分化誘導に成功している。
長藤圭介氏は材料科学における取り組みを紹介した。研究における暗黙知を形式知とし、OODAループを回すことを目指す。いまは電気自動車の電池材料を探す『MEEP』に取り組んでいる。
原田香奈子氏は科学実験を行うAIロボットの開発、知識や機能を獲得するAI、数理基盤開発を行っている。具体的には農薬の代替・医薬品の開発をターゲットとして文献と化合物構造から有機化合物を提案、実際に作ってロボットで実験して微細構造を計測するといった効率化ループを回す。
牛久祥孝氏は人間の研究者とAIロボットが互いにやりとりしながらロボットが実験を行い、その成果を使って2050年までにノーベル賞を取れるようなAIを作り出すことを目標としている。基盤モデルも活用し、2030年をめどに実験科学を進められるAIロボット開発を目指す。

■パネル討論

パネルディスカッションイメージ

パネルディスカッションは主催側4人のほか、科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)フェローの嶋田義皓氏、ソニーグループ最高技術責任者・内閣府AI戦略会議 構成員の北野宏明氏、東京大学 教授・内閣府AI戦略会議 構成員の川原圭博氏。
モデレーターは科学技術・学術政策研究所(NISTEP)データ解析政策研究室長の林和弘氏が務めた。

パネルディスカッションイメージ

林氏は歴史を振り返ったあと、
AIロボット駆動科学の論点は、
1)知識生産労働集約作業からの解放
2)知識創造の労働集約作業からの解放
3)新しい知識共有メディアとコミュニティの可能性
だとした。

そしてそれぞれについて東大・川原氏、ソニー北野氏、JST嶋田氏がコメントした。
川原氏は、ChatGPT登場以降、これから5年先を見据えた産業界とアカデミアの役割分担と連携という図を紹介し、5年後以降を考えて直近の課題に取り組むべきだと語った。
北野氏は『ノーベル・チューリングチャレンジ』について触れ、AIロボットを使ってノーベル賞級の発見を自動でどんどん出せる時代が来ると述べた。
嶋田氏は長期的にはAIロボット駆動による新しい科学のあり方が科学全体のかたちを変えていく可能性があるので研究コミュニティ全体で取り組んでいくべきと語った。講演者4人からもそれぞれの立場から意見が出て、議論が深められた。

第二部AIロボット駆動科学が
向かうべき方向性

第二部は「AIロボット駆動科学が向かうべき方向性とその実践、そして社会との対話」と題して、ポスターセッションのほか、第二部講演として8人の研究者がショートプレゼンを行った。

■ポスターセッション

氏 名 所 属 タイトル
P1 高橋 恒一 理化学研究所 AI・ロボット駆動生命科学 実証拠点の構築
P2 木賀 大介, 宮崎 和光,
安田 翔也, 濱田 立輝,
奥田 宗太, 小玉 直樹,
山村 雅幸
早稲田大学 論理推論AIによる遺伝子ネットワークの自動生成
P3 小髙 充弘 国立情報学研究所 データ・知識融合型アプローチによる感染ダイナミクスの解明
P4 夏目 徹, 松熊 研司 RBI株式会社 AIロボット駆動型ライフサイエンスの実現
P5 光山 統泰 産業技術総合研究所 実験プロトコルからロボットジョブを生成する
知識グラフアルゴリズム
P6 海津 一成 理化学研究所 AI駆動生命科学にむけた全自動細胞まるごと
モデリング技術の開発
P7 荒金 究 大阪大学 蛋白質研究所 テキストマイニングによるPubMed・PubMed Centralからの
遺伝子ネットワークの抽出
P8 稲垣 貴士 名古屋大学 LLMs can generate robotic scripts from goal-oriented instructions in biological laboratory automation
P9 杉浦 広峻, 天谷 諭,
Bilal Turan, 新井 史人
東京大学 AIロボット技術を支えるセンサ,アクチュエータ技術
P10 坂本 琢馬, 内川 英明,
専光寺 旭洋, 佐野知代
JAXA宇宙技術部門
きぼう利用センター
国際宇宙ステーション(ISS)日本実験棟「きぼう」における
宇宙実験利用の遠隔化・自動化・自律化
P11 Onur Boyar, 岩田 和樹
花田 博幸,竹内 一郎
名古屋大学, 理化学研究所 深層先生モデルに基づく新規化合物の探索
P12 五十嵐 亮 オムロンサイニックエックス株式会社 関数同定問題
P13 大石 保之, 永井 健治 ヤマト科学株式会社,
大阪大学
生物試料迅速解析自動化システム
P14 松原 崇 大阪大学 圏論と構造保存の観点に基づく幾何学的深層学習の一般化
P15 山田 康輔, 笹野 遼平 名古屋大学 基盤的世界知識としての意味フレーム知識の自動構築
P16 嶋田 義皓 科学技術振興機構
研究開発戦略センター
AIロボット駆動科学と次世代AIモデル研究開発
P17 丸山 隆一 科学技術振興機構
研究開発戦略センター
AIは人間・社会的営みとしての科学をどう変えるか
〜“AI×Metascience” 予備的文献サーベイ〜
P18 田中 涼太, 西田 京介 日本電信電話株式会社,
NTT人間情報研究所
視覚情報から文書を理解する視覚的読解技術
P19 木野 日織 物質・材料研究機構 合金用第一原理計算ワークフローによる
大規模データ生成と法則獲得
P20 柳生 進二郎, 吉武 道子,
長田 貴弘, 知京豊裕
物質・材料研究機構 サンプルマルチ診断のためのマテリアルシーケンサー開発
P21 田中 暉久, 大屋 尋鷹,
長藤 圭介
東京大学 燃料電池触媒層塗工のためのプロセスインフォマティクス
P22 相場 諒 東京大学 拡張可能な自律駆動マテリアル探索システムの開発
P23 武市 泰男, 小野寛太 大阪大学 自律型XRDシステムの開発と今後の展開
P24 中島 優作 大阪大学 材料科学実験の自動化に向けた粉体粉砕ロボットの開発
講演イメージ 講演イメージ

■第二部講演

氏 名 所 属 タイトル
1 尾崎 遼 筑波大学 医学医療系バイオインフォマティクス研究室 AIロボット駆動化学のフロンティア
2 飯田 正仁 三菱総合研究所 先進技術センター
研究員
研究共創パートナーとしてのデジタルヒューマン
3 清水 亮太 東京大学理学系研究科 化学専攻
准教授
マテリアルインフォマティクス・プロセスインフォマティクスのための
AI駆動科学
4 二階堂 愛 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 ゲノム機能情報分野教授、
理研生命機能科学研究センター(BDR)
バイオインフォマティクス研究開発チーム チームリーダー
基盤モデルに向けたオミクス計測の未来
5 吉野 幸一郎 理研ガーディアンロボットプロジェクト(GRP)
知識獲得・対話研究チーム チームリーダー、
奈良先端大 先進科学技術研究科
ロボット対話知能研究室(連携) 客員教授
AI駆動科学の実現に向けた状況の認識と行動の生成
6 竹内 一郎 名古屋大学 工学研究科 機械システム工学専攻 機械知能学 教授、
理研 革新知能統合研究センター(AIP)
データ駆動型生物医科学チーム
AI駆動仮説の統計的仮説検定
7 久木田 水生 名古屋大学 情報学研究科
社会情報学専攻 情報哲学講座 准教授
エイリアンの科学と科学のエイリアネーション
8 馬場 雪乃 東京大学総合文化研究科
広域科学専攻 准教授
Human in the Loop機械学習の科学応用
9 倉持 隆雄 科学技術振興機構
研究開発戦略センター・副センター長
総括

閉 会

最後に主催者を代表して高橋恒一氏が閉会の挨拶を述べた。高橋氏は「本当にものすごい議論ができた。2部構成にして良かった。一部ではAIロボット駆動科学について説明した。第2部でわかって頂いたように、この分野は総合的な取り組みが必要。今回、どの方にご協力を依頼しに行っても『良いね』と即座に帰ってきたのが印象的で、各方面からもご協力いただいた。これだけ応援いただいているのは新しいフロンティアを拓こうとしているから」と語った。
そして「日本のサイエンスの課題の一つとして評価の部分が挙げられる。ポスターセッションで髙橋政代先生とも議論したが、新しい分野を切り拓く上では評価の仕方も新しい時代に合わせたものにしていくべきなのではないか。我々に課された責務として受け止めなければならない。オープンサイエンス、国際ネットワークをどう作っていくかも考えなければならない宿題」と述べた。
今回のシンポジウムの主催を「AIロボット駆動科学イニシアティブ設立準備事務局」としている点について触れて、「作ることは決めているが、中身はこれから。どういう活動をするべきなのかを、これから頂くフィードバックを元に考えていこうと思っている。いずれにしても『新しい分野を切り拓くべきだ』と4人で走り始めたが、様々な方々とネットワークを構築することができた。新しい科学のあり方を実現するために邁進していきたい。これからもご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いしたい」と語ってシンポジウム全体を締めくくった。
「AIロボット駆動科学イニシアティブ設立準備事務局」は今後「AIロボット駆動科学イニシアティブ」を立ち上げる予定だ。

■主催: AIロボット駆動科学イニシアティブ設立準備事務局

■共催

・JST未来社会創造事業
「ロボティックバイオロジーによる生命科学の加速」
(高橋恒一代表)
・同
「マテリアル探索空間拡張プラットフォームの構築」
(長藤圭介代表)
・JSTムーンショット型研究開発事業
「人とAIロボットの創造的共進化によるサイエンス開拓」
(原田香奈子PM)
・同
「人と融和して知の創造・越境をするAIロボット」
(牛久祥孝PM)

■後援・協力

  • ・ロボット革命・産業IoTイニシアティブ
  • ・人工知能学会
  • ・慶應義塾大学SFC研究所AI社会共創ラボラトリ
  • ・科学技術振興機構(研究開発戦略センター、CREST「バイオDX」領域)

    ほか